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大阪高等裁判所 昭和26年(ラ)65号 決定 1953年9月19日

抗告人 村川正弘

右法定代理人後見人 村川治郎

利害関係人(旧姓、村川) 田上久子

主文

右審判を取消し本件を大津家庭裁判所水口支部へ差戻す。

理由

抗告人は「大津家庭裁判所水口支部へ右利害関係人が為した相続放棄申述について昭和二十五年八月二十三日同庁のせられた右申述却下の決定を取消して更に相当の裁判を求める」と申立てた。その抗告理由は別紙記載の通りなのでその内「一三、一四」について見るに、法定期間内に家事審判規則第百十四条第二項の要件を具備する相続の限定承認又は放棄の申述書が裁判所へ提出せられた場合、裁判所としては右申述書が申述者の意思に基いて右限定承認又は放棄の意思を以て作成提出せられたか否かを調査して右申述者の受理か却下を決すべきであり、提出後に於ける承認又は放棄の意思を以てこれを決すべきではない。それなのに原審判は「事実取調の結果申述人は村川常二郎の相続を承認するにあるから」との理由で本件相続放棄の申述を却下したのは違法であり、この点に関する本件抗告はその理由があるので家事審判規則第十九条第一項を適用して主文の通り決定する。

抗告の理由(抄)

二、抗告人の父常二郎は昭和二十五年四月二十日死亡し相続が開始しました。

三、久子は亡常二郎の妻として三分の一の相続分を有するも之を放棄するにより代償として現金を貰い度いと亡常二郎の父村川正治及常二郎の兄村川治郎に申入れましたので常二郎の親族一同協議しこの要求を容れることとし昭和二十五年七月十二日○○、○○立会の下に「久子が自発的に相続を放棄するならば常二郎の親権は其の代りとして久子へ金五万円を渡さう」との協定が円満に成立しました。

四、昭和二十五年七月十七日村川治郎は久子の実父田上宏の手より久子署名捺印の相続放棄申述書を受取つたので田上宏に金五万円を渡し右申述書は即時大津家庭裁判所水口支部へ提出しました。

五、昭和二十五年七月二十八日に家庭裁判所水口支部で審問がありました。

六、右審問の席上久子は本件申述書は全く自発的に作られたもので詐欺強迫により作られたものでなく相続放棄の意味を十分諒解し居り且相続放棄を為す故に常二郎の親族より既に五万円の現金を実父宏の手を経て受取つた旨主任判事に陳述し判事の問に対し七月二十四日以降考が変り今では相続放棄の意思がないと陳述したのであります。

八、昭和二十五年八月二十三日久子は再度媒酌人と同道水口支部に出頭相続放棄を取り止め度い旨主任判事に陳述したのです。

九、大津地方裁判所水口支部は同日附を以て右久子の相続放棄申述を却下する旨決定せられました。しかし此の決定は久子以外のものには発表せられず村川方の親族は後日此の事を知つたのであります。

十三、相続放棄の申述は申述書が法定期間内に管轄裁判所に提出せられ夫れが偽造変造でなく詐欺強迫によるものでもなく申述人が完全に其の申述の意味を諒解して自発的に之を作り適式の記載ある場合裁判所はもはや其の申述を拒否し得ぬのであつて審問は申述書が提出された時に於ける申述人の意思を確める為めであり申述書提出後の申述人の心境変化は申述の効果に些の影響を与へないものと思うのであります。

十四、若し申述者が受理決定迄は任意に飜意を許さるるものとすれば裁判所の決定が遅れた場合相当長い間意思決定期間があることとなり相続開始後三月以内に承認放棄の意思を決定する様要求する民法の規定に矛盾するものと思います。

十五、仮りに飜意が許さるるものとしても夫れは利害関係人一同異議のないことを確めた上例外的に認められるのであつて本件の如きには当てはまらぬものと考えるのであります。

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